届けてたいのは色とりどりの想い

花を贈るのは何故でしょうか。

それは私にとって大切な存在だと伝えたい為ではないでしょうか。私たち花たくは「花を贈る」とは、言葉にできない想いを伝える方法の一つと考えます。

花たくはご注文いただいた際に「花を受け取る方」について伺います。これまで20年間で延べ9000人の想いを預かり、花束に換えてお届けしてきました。

このサイトではこれまで花たくが触れてきた想いの中からクリスマスのエピソードをご紹介します。

episode 3
気持ちの伝え方

「今日花届くから預かっておいて」

息子からのLINEはいつも唐突で話の前後が見えない。

父と息子の会話なんてそんなもの。
深く聞かずとも引き受けるのが父の役目だろう。

「はい。 ところで年末は帰ってくるのか?」

返事は帰って来なかったがそれもいつものこと。既読と表示された画面を見て待つのをやめた。

落ち着きがないのは誰に似たんだか。

こちらから話しかけた頃にはもう会話は終わっていた様だ。


チャイムが鳴った。
財布を手に取り玄関を開けると花を抱えた笑顔の女性が立っていた。

「花たくです!お花のお届けにあがりました」

「ありがとう、お代は?」

「先に頂いてます」

「そうか。何も聞かされていないからどうしようかと思ってね」

女性が抱える花は想像以上に大きかった。
右手左手を交互に差し出して、結局両手で受け取った時に自分で花を注文した事がないことに気づいた。

「素敵ですね。奥様へ毎年贈られているんですか?」

「私が? いやいや、息子に頼まれたんだ」

「息子さんから伺っていますよ。
父が、どうしても母に贈りたいって言うから、一番いいやつを届けてほしいって。代わりに買いに来たって仰ってましたよ。あ、こちらも奥様に」

そう言いながら手渡されたのはメッセージカードだった。

見ず知らずの女性が嬉しそうにしている事が不思議だった。


素敵ですね、か。どうりで嬉しそうな顔をしていたわけだ。
花屋さんの目には60を過ぎて妻に花を贈る”粋な夫”に映ったのだろう。

リビングのテーブルに置いた花束とカードを見て、いささか強引だが今日だけはこれまでとは違った自分になった様な感覚を覚えた。 こんな事でもなければ妻に花を贈る機会はなかったかもしれないと思うと、素直にこの花を手渡してみたかった。

1時間後には帰ってくる。

花束を持って迎えてやろう。


「ただいまー。
ケンタが大晦日に帰ってくるって父さんに伝えてって・・・」

帰って来た。ドアを開けてから話せばいいのに。

「おかえりなさい」

「やだ!すごいわね、どうしたの?」

「日頃の感謝を伝えたくてね」

「私に!?ありがとう、お父さん。」

「私がこの花好きなのよく知ってたわね?」

「まあ、夫として当然な。」


世の中には、自分の妻の好きな花を知っている夫はどれだけいるだろう。 ケンタが知っていた事にも驚くが、きちんとその花を選んでいる事に関心する。

こうした一面が頼もしくもあり、深く聞かなくても心配せずにいられる理由だろう。

「これ、せっかくだから読んでくれる?」

一仕事終えた気でいたが、花と一緒に受け取っていたメッセージカードはまだ渡していなかった。

面と向かって気持ちを伝えるなんて照れ臭いが、今は粋な夫としてそれも悪くない。

あくまで渋々といった表情で封を開ける。カードを裏返すと一言だけ書かれていた。

- ここはアドリブでよろしく -

息子のニヤニヤした顔が目に浮かぶ。

皆様にとっての大切な人が思い浮かんだでしょうか。
今まで伝えきれなかった想いがありましたら、私たちがお預かりします。

episode 2
クリスマスまでの間

彼女と過ごす日曜日。
点けていたテレビは街の街路樹にイルミネーションが灯されたと知らせている。

(また雪が降るのか)

いつからかイルミネーションは憂鬱な知らせになっていた。

「ねえ、聞いてる?」

「ん?なんだっけ?」

「クリスマスの話!どこから聞いてなかったの?・・・ほんと、釣った魚には餌を与えないタイプだよね。」

「そんなことないだろ。記念日だって大事にしてる方だよ俺は」

「だといいんですけどね。じゃあさ、今年はクリスマスツリーでも用意しようよ!」

「えっ、ツリーか。」

こどもの様にはしゃげる彼女が羨ましくすら感じる。
若い頃ならクリスマスに逸る気持ちはわかるが、いくら雪の多い札幌でも11月にクリスマスと言われてもピンとこなかった。

「・・・イエス様はこう仰いマシタ。」

【イツモドオリデ イイノデス】

「はいはい、わかりました。
でもなにか季節のものが部屋にあるといいと思うけどなー。」

「クリスマスツリーなんて所詮イベントの飾りだよ。重要じゃないさ。」


若い頃は友人を呼んでパーティもしたけど、二人で過ごすのに特別な事は必要なかった。ここ何年かはそんなクリスマスだった。

別にクリスマスが嫌いなわけじゃない。ただ、それ”らしさ”が気恥ずかしいだけで、喜んでくれるなら何したところで良いんだけど。

「重要なのは中身だよ。ツリーよりも美味しいもの食べに行けば良いんじゃない?」

「そうじゃなくて”クリスマスまでの間”も重要なの。」

「間? そんなもんかね。よく分からないけど」

「分かった、リースはどう? 花屋さんがやってるクリスマスリースの展示会があるから見にいこうよ。」


展示会は東西線 西18丁目駅からほど近くにある店舗で行われていた。

2階の一角を貸し切った会場は、天然の草木や木の実を使ったクリスマスリースやキャンドルやガラス作品が並んでいる。

今までイメージしていたクリスマスの飾りとは趣が違い、草木や木の実など素材の質感の良さや品のある華やかさは、どこかこの年で迎えるクリスマスに合っている気がした。


「それ、ほしいんでしょ?」

そう話しかけられて、しばらく同じ場所に突っ立っていた事に気付く。

眺めていたのはコニファーで出来たリースだったが、思い浮かべていたのはリースが飾られた二人の部屋、いつもと同じ日々の風景だった。

「クリスマスまでの間しか飾らないんだよね?」

「そうじゃない? 普通は」

「そうだね、その方がいい」

時間は川の様に流れ去って、遠い先で途切れることも知っている。あるいは不意に訪れるかもしれない。

いつもと同じ部屋、いつもと同じ生活に【クリスマスの前】という記憶のラベルを付けて一緒にとっておけるならクリスマスの飾り付けも悪くない。

「どこに飾ろうか」

皆様にとっての大切な人が思い浮かんだでしょうか。
今まで伝えきれなかった想いがありましたら、私たちがお預かりします。

エピソードに出てくるクリスマスの展示会は今年も開催いたします。

詳しくはこちら

episode 1
サンタクロースへの手紙

「・・・もう寝た?」

「うん。朝からはしゃいだからね。」

「今日も1日おつかれさま」

いつもより小声で話すクリスマスイブの夜。

「プレゼントどうしたの?」
「結局プラレールにした。」
「それでいいよ。前から欲しがってたもの。」

多くの家庭でそうする様に、息子にはサンタさんへの手紙を書いてもらった。

子どもが欲しいものをリサーチする為のよく出来た方法だと思うのだが、
うちの場合は想定外の答えが返ってきた。


【ままだいすき】

サンタさんへの手紙には、何故かママへの気持ちが綴られていた。
自分の手で書いた文字。覚えたての平仮名。大好きなママへの気持ち。
父親としても嬉しい一言だったが、肝心なプレゼントについては書かれていなかった。

「俺が子供の時は【ゲームください】って書いたんだけど、次の日目が覚めたら枕元にオセロがあったんだ。」
「いいじゃない、オセロ。」
「今思うとね。当時は分からなかったんだろうね。ゲームって、ファミコンのイメージだったから。それで俺泣いちゃったんだ。おもってたのとちがーうーって」
「あはは、お義父さんの困った顔が目に浮かぶわね」

40歳になると自分が子どもだった頃の親の気苦労がようやく分かってくる。
懐かしい話を思い出しながら談笑していた時、遠くの部屋で物音がした。

「もう暗くしておいた方がよさそうね」
「そうだな。俺は部屋で少し仕事するから先に寝てて。」
「うん、おやすみ」


溜まっていた仕事を片付け時計を見ると1時を過ぎていた。
そろそろいいか。
クローゼットに隠して置いたもうひとつのプレゼントを取り出した。
ピンクのバラの花束を眺めながら、受けとった時にどんな顔をするかを想像する。

手紙を見た2週間前からずっと考えていたが、答えを見つけた時にはドキッとした。
シンプルなのに難しい、いつでも出来るのにいつもしない事だったからだ。
”ままだいすき”はきっと、パパもママが大好きなんだよって伝える事なんだと思う。


雪が降るクリスマス。
朝の日差しの中に笑顔の二人の姿がある。

息子は花束を抱える妻を見て自分のことの様に喜んでくれた。
親になると子どもの言葉や仕草、成長の一つひとつがプレゼントだ。
きっと妻もそう感じているだろう。

息子の手紙は親である事の幸せを気づかせてくれた。
子どもの笑顔と花束のプレゼント。

皆様にとっての大切な人が思い浮かんだでしょうか。
今まで伝えきれなかった想いがありましたら、私たちがお預かりします。

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